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その91
大正6年1月1日号『三越』の表紙は、杉浦非水画キューピーの巻

弓屋かえる堂さえきあすか


キューピーが描かれた『三越』

   悲しいかな、“老舗”という看板が、どんどん少なくなっている昨今、大手老舗デパートも売り上げ大幅減少だ、リストラだ、閉店だと、暗いニュースが飛び交っています。明治37(1904)年12月に、三井呉服店から百貨店の株式会社三越呉服店に生まれ変わり、昭和3年に、三越呉服店から三越の商号になって、今日まで続いている三越デパートもそのひとつです。池袋三越が閉店した時も、なんとなく寂しい気持ちになりました。

   三越といえば、雑誌『太陽』の大正時代特集(平凡社、昭和49年発行)によると、大正時代の三越って、靴を脱いで上がっていたそうで、それだけでもデパートの歴史を感じちゃうのですが、洋装が普及したとはいっても、まだまだ和装のほうが主流の時代のこと。当然下着をつけていませんから、掃除をするとヘアーの山がいっぱいできたそうです。なるほど。考えてみればそうですよね。活字で読まなければ、考えもしませんでした。三越の歩みにもこんな微笑ましい(?)歴史があるのですね。

杉浦非水画『三越』

   その頃に発行された商品カタログ『三越』が数冊手元にあります。冊子といえば、三越では三井呉服店であった明治30年代より、営業用のPR誌をつくってきたそうですが、モノの紹介をはじめ、一流作家に執筆してもらったり、呉服談を載せたり、単なる商品カタログではない、娯楽読物ともいえる質の高い冊子を何種類もつくってきました。商品カタログ『三越』は、明治44年3月に創刊され、私の手元にあるのは、大正3年から6年までの全部で11冊。どれも表紙は絵が使われていて、暗い色合いの絵が多いのですが、これらの絵は杉浦非水さんが描いておられます。

   杉浦非水さんといえば、煙草のパッケージ“光”や“響”のデザインをはじめ、昭和2年の東京地下鉄道開業ポスターなどを手がけられた大変有名なデザイナーですが、「三越の非水」、「非水の三越」とまで称されるようになった人でもあります。明治41年に専属嘱託社員として三越に迎えられ、昭和9年に退職されるまで、ポスター製作をはじめ、人々の話題にのぼる絵を描いてこられたのです。

   当時の『三越』を眺めてみると、描かれた花や風景、鳥や虫も、和風と洋風をおりまぜた、しかも高級感あふれる絵ばかりで、そのまま額に入れて飾ってもステキだと思うほどです。中でも大正6年1月1日号は、なんと表紙がキューピーなのです。黒地に赤い菱形が描かれ、菱形の中央に金と白でキューピーが浮き上がった、なんともモダンなデザインと、まわりにちりばめた花や花びらも可愛らしく、なにより愛くるしい表情のキューピーに思わず私もニッコリ。「これが大正時代に描かれたのか!」と感激しました。

“光”が描かれた煙草ケース

   追いつけ追い越せとばかりに、舶来品を輸入し、それらの商品が日本らしさを織り交ぜながら、国内でどんどん生産されるようになった大正時代。商品カタログ『三越』の中にも、さまざまなモノが並んでいました。呉服店からスタートした三越ですから、美しい着物はもちろんのこと、レースのバッグ、梅や菊の花をモチーフにした純金や白金の指輪、英国製の美しいガラスビンに入った化粧品、懐中時計にカメラ、万年筆をはじめとする新しい文房具。電車や自動車のゼンマイ式玩具、米国製の新着チョコレート、珈琲挽き、フライパン、ゼリー型に菓子型などなど、現在も活躍する台所用品や、家具までたくさん紹介してあるのです。もちろんカラーではなく、すべてモノクロ写真で紹介してありますから、どんな色合いなのか想像をたくましくして、ますますウットリ。これらのモノたちは当時の人たちにとって、今まで経験したことのない新しい生活を演出する、さぞかしロマンチックなモノとして映ったのではないでしょうか。

花と蝶が表紙の『三越』

   そんな当時を思うと、残念ながら今はモノに夢がないような気がします。あり過ぎるのでしょうね。モノが…。そして、モノがたくさんあるだけ、買う手段も増え続け、今では定価もあってないようなもの。100年以上続いてきた老舗デパートは、確かに厳しい現状に立たされているのでしょう。

   けれど、日本橋三越に足を運ぶと、重厚で歴史ある店構えと、店員さんの親切な応対に、やはり魅力を感じてしまいます。商品は高価で手がでないモノも多いのですが、目の保養にはなりますし、こんなの流行っているんだぁとしげしげと眺めたり、大好きな洋菓子舗ウエストの三越レトロカフェで、ケーキとコーヒーを注文して、大正時代のカタログに思いを馳せてみたりして。私にとっては、小さな非日常空間であることは、間違いないのです。

デパートの王座日本橋三越絵葉書



2010年2月8日更新


その90 絵葉書に見るキューピーのお正月の巻
その89 クリスマスにキューピーのペーパーウエイトの巻
その88 雪が谷大塚からやってきた、「溶鉱炉水滴」と「スズメの豆皿」の巻
その87 まぼろしの神保町絵葉書とまぼろし骨董館の巻
その86 防虫消毒香料発散機「ムシキラー」の巻
その85 笠間骨董我楽多市と一富士二鷹三茄子筆立ての巻
その84 喫茶店の中の東京タワーと『世界一の東京タワー』絵葉書の巻
その83 東洋の宝石「帝国ホテル・ライト館」名刺入れの巻
その82 昭和初期につくられた簪を入れた小引き出しの巻
その81 OCCUPIED JAPANの小箱と『伝統工芸 東北のこけし』の巻
その80 マツダセレクトスイッチ電気時計と『実用 電気時計総説』の巻
その79 『山梨水晶』カタログと“ブルームーンストーン”に恋をするの巻
その78 “タンク式洗濯器”と向田邦子さんを真似て古い小鉢を買うの巻
その77 たばこ祭りで買った煙草煎餅と煙草図柄皿の巻
その76 昭和13年ライオン常用日記と手帳の巻
その75 「防諜」を訴える三猿貯金箱の巻
その74 ビー玉、水晶、真珠、まんまるに惹かれての巻
その73 房総からやってきたウランガラスのビー玉と貝殻の巻
その72 切れ端の写真立てと国旗柄写真立ての巻
その71 富山の薬箱はひきだしの巻
その70 水アイロンと桜&鈴印のコテの巻
その69 『がらくたからもの』対談と主張する平和記念“糸とおし”の巻
その68 宇都宮からやって来た鳳凰が描かれた小箱の巻
その67 野球少年柄のランドセルとランドセル柄の帯の巻
その66 三峯神社と戦前の迷子札の巻
その65 浦賀からやってきた江戸時代の灯芯押さえの巻
その64 戦前の牛乳ビンは花瓶の巻
その63 便利な実用品『回轉式踏台』の巻
その62 美味しい野菜&野菜種袋の巻
その61 元旦の福袋!日満ポンプと戦前鉛筆削りの巻
その60 国産マッチ創始者『清水誠』とマッチ入れの巻
その59 “萬年海綿器”と“スタンプモイスチャー”の巻
その58 上野「十三や」のつげ櫛の巻
その57 斎藤真一『紅い陽の村』と『夫婦岩』の大皿の巻
その56 ケロちゃん色の帯と『LUNCOの夏着物展』の巻
その55 こわれてしまった招き猫「三吉」の巻
その54 下北沢の『古道具・月天』と画期的発明鉛筆削りの巻
その53 無料で魅力的なモノ、例えば「ケロちゃんの下敷き」の巻
その52 時間の整理と時間割の巻
その51 自分へのごほうび、昔の文房具に瞳キラキラの巻
その50 アンティーク家具を使ったブックカフェで…の巻
その49 『Lunco』と『小さなレトロ博物館』、着物だらけの1週間の巻
その48 コルゲンコーワのケロちゃんと『チェコのマッチラベル』の巻
その47 「旧軽の軽井沢レトロ館にてレースのハンカチを買う」の巻
その46 濱田研吾さんの『脇役本』、大山と富士山型貯金箱の巻
その45 横浜骨董ワールド&清涼飲料水瓶&ターコイズの指輪の巻
その44 『セルロイドハウス横浜館』とセルロイドのカエルの巻
その43 奈良土産は『征露軍凱旋記念』ブリキ皿の巻
その42 ブリキのはがき函と『我楽多じまん』の巻
その41 満州は新京の絵葉書の巻
その40 ムーラン鉛筆棚の巻
その39 「Luncoのオモシロ着物柄」の巻
その38 ペンギンのインキ壷の巻
その37 「更生の友」と「ナオール」こと、60年前の接着剤の巻
その36 鹿の角でできた「萬歳」簪の巻
その35 移動し続けた『骨董ファン』編集部と資生堂の石鹸入れの巻
その34 「蛙のチンドン屋さん」メンコと亀有名画座の巻
その33 ドウブツトナリグミ・マメカミシバヰの巻
その32 ガラスビンと生きる庄司太一さんの巻 後編
その31 ガラスビンと生きる庄司太一さんの巻 前編
その30 『家庭電気読本』と上野文庫のご主人について‥‥の巻
その29 ちんどん屋失敗談とノリタケになぐさめられて‥‥巻
その28 愛国イロハカルタの巻
その27 ちんどん屋さんとペンギン踊りの巻
その26 「ラジオ体操の会・指導者之章」バッチと小野リサさんの巻
その25 針箱の巻
その24 カエルの藁人形と代用品の灰皿の巻
その23 『池袋骨董館』の『ラハリオ』からやってきた招き猫の巻
その22 東郷青児の一輪挿しの巻
その21 西郷隆盛貯金箱の巻
その20 爆弾型鉛筆削の巻
その19 へんてこケロちゃんの巻
その18 転んでもただでは起きない!達磨の巻
その17 ケロちゃんの腹掛けの巻
その16 熊手の熊太郎と国立貯金器の巻
その15 単衣名古屋帯の巻
その14 コマ太郎こと狛犬の香炉の巻
その13 口さけ女の巻
その12 趣味のマーク図案集の巻
その11 麦わらの鍋敷きの巻
その10 お相撲貯金箱の巻
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その7 ピンク色のお面の巻 前編
その6 ベティちゃんの巻
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その2 忠犬ハチ公クレヨンの巻
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