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さえきあすか

その9 カール点滅器の巻


 「その5 うさぎの筆筒の巻」で書きましたが、8年もの間、机の上に置いてあった、うさぎの筆筒を動かしてしまいました。
 仕方がありません。突然引っ越してしまったのですから。
 7月も終わりにかかったある日のこと。なんだか無性に「このままではいけない」なんて、ドラマの見過ぎのような心境に陥ってしまい、手に取ったのが「週間CHINTAI」。少しだけ占いにもはまっている私が意識した方位は東南。友人がいる沿線をポイントにして探し、翌日には不動産屋さんへ。二軒目の物件で即決してしまったのです。これにはまわりの人は驚き、なにより私自身が一番驚きました。
 自分でいうのもナンですが、けっして軽はずみな行動をとるタイプではありません(?)。たぶん、目に見えない気持ちの部分で「もう、ここで限界」って思ってしまったんです。いつの間にか、部屋の中は圧迫感を感じるほどのモノであふれていました。せまいのは得意、ずっとそう思っていたのですが、風も抜けない状況に疑問を抱きはじめていたのです。
 この街は大好きでした。東京なのにタヌキがいて、牛がいて、鳥も多く、早朝にはニワトリも鳴くのです。それに大きな木や雑木林、畑も多くて、畑で採れた野菜や花は無人販売のお店で売られていました。思えば住みはじめてから、うさぎの筆筒と同じ年数の8年が経っていたのです。まさかこの街を出ていくことになるなんて。気持ちの変化がこんなに急激に起きるなんて……。
 でも、決めてしまった以上は不動産屋さん、大家さんをはじめ、お金も動きはじめます。停滞していた自分自身の中に風を通すこと。山のようにいる大好きで大切なモノたちとのつきあい方を見直すこと。課題はたくさんありました。
 そうです。自分自身の整理整頓をするには、多額のお金と労力を要する引っ越しは、ちょっと乱暴ではありますが、最高の手段といえます。反省と不安と複雑な気持ちをいっぱい抱えたまま、引っ越しはスタートしました。とにかくモノが多いので一度では無理です。何度かにわけて引っ越しします。

青い笠の電灯

 さて、私がこの部屋に決めた理由は、角部屋であること。風水的にもいいこと(怖い?)。そしてなにより、天井に取り残された電灯と目が合ったのです。プラスチック製ですが、ひと昔前につくられた青い笠の電灯です。赤っぽい太いコードがビヨンとたれ下がっていて、スイッチもついています。見た瞬間「この電灯ステキ!」というと、新しいマンションを好む不動産屋の若者は、けげんな顔をしていましたが、「もし使われるようでしたら、大家さんにいっておきますよ」とのこと。「本当ですか? お願いします!」
 青い電灯からたれ下ったコードとスイッチを眺めていたら、「カール点滅器」を思い出しました。現在のように、部屋中いたるところにコンセントがなかった時代は、部屋の中心にある電灯が唯一の電源でした。アイロンをかけるのも、ラヂオをつけるのも、電灯から電気をとっていたのです。「カール点滅器」の小さな箱にも、電灯から電気をとってアイロンがけをする、結い髷に割烹着姿のお母さんが描いてあります。どんな代物かというと、電笠の上についているスイッチにカパッとかぶせて、横からでた細長い棒に長いヒモをつけることにより、ヒモで電気をつけたり、消したりできるのです。それも、暑い夏にはカヤの中から操作できます。

カール点滅器

 今の電灯から考えると、あまりにも当たり前の機能で「なーんだ、そんなことか」と思われてしまいそうですが、大正末期から昭和初期という時代には、画期的な便利グッズだったに違いありません。ヒモで電気を操作できれば、電灯を高く取り付けることもでき、部屋をさらに明るくできたことでしょう。そんなことを思いながら、ヒモとスイッチの両方がついた青い電灯に愛しさを感じていました。
 新しい街には大きな木がありません。なのでカラスは少ないように思います。高い建物も少なくて、やたらと空が広いのです。前と違うのは川が近いこと。けれど、変わらないのは畑の多さ。私らしい選択に笑ってしまいます(ポイントは畑か?)。ちょっとだけ故郷の景色にも似ています。そして風がよく通るので、私の気持ちの中にも、きっといい風が吹いてくれるはずです。
 しかし、誤算がありました。お風呂が壊れていたのです。お盆中に引っ越したので修理もできず、近所の銭湯も盆休み。引っ越し祝いにスイカを半分買って、水あびをして一夜を過ごしたのでした(つくづく夏でよかったです)。翌日からは設置した湯沸かし器で、洗面器やボールにお湯を入れてお風呂場に運び、身体を洗って過ごしました。当たり前にあったお風呂のありがたさが身にしみながら…です。ちなみに、こんな生活は9日ほど続き、お風呂がなおった日には、「バンザイ、バンザイ」と両手をあげていました。


2002年9月27日更新
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その8 ピンク色のお面の巻 後編
その7 ピンク色のお面の巻 前編
その6 ベティちゃんの巻
その5 うさぎの筆筒の巻
その4 衛生優美・リリスマスクの巻
その3 自転車の銘板「進出」の巻
その2 忠犬ハチ公クレヨンの巻
その1 野球蚊取線香の巻


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