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さえきあすか

その13 口さけ女の巻


 松嶋菜々子さんのような笑顔をするのは難しいです。いえ、なにも同じ顔になろうというわけではありません。真似したいのは口もとです。ニコッとほほえんだ時に、白い歯がキラリと光る美しい三角の口もと。同じようにやってみると、なんて難しいのでしょう。 黒木瞳さんにしてもそう。白い歯をだしながら話すのって、今まで私が使ってきたのとは違う顔の筋肉を使うようなのです。カガミを前に何度も練習中。
 ニコッ。ニマッ。ニッ。‥‥‥‥。
 なにかが違うと思ったら、私が歯を見せて笑うと、リスがごはんを食べている時のように、ホホの肉がふくらみます。つまり顔に肉が多いってこと? 悲しい。トホホです。

 ところで、どうしていきなり笑顔の練習をはじめたかというと、引っ越しでずいぶんお金を使ってしまったし、おこづかいをかせぐために、会社が終わってから近所のスーパーで週4回のアルバイトをはじめたからです。まずは笑顔が大事。一見南陀楼綾繁さんに似た年下の店長代理にいわれて、ちょっと楽しい気分になりましたが、ひさしぶりのアルバイトですから、しっかりやろうと緊張しているのです。

 けれど、笑顔がこんなに難しいなんて、ちょっとビックリ。ここ数日間、笑顔を意識してテレビを見てみると、アナウンサーの女性をはじめ、どなたもとても美しい口もとです。間違いなく日夜訓練しておられるのでしょう。私は気づくのが遅かったかしら?

 スーパーではじめて働く私は、買う立場から想像するに、バーコードをピッと認識させるだけだと思っていたのですが、レジの中に入ってみると、バーコードのない商品は多いし、覚えるキーもたくさんあります。夜の担当なので、さまざまな値引きにも対応しなければいけません。その上、商品をカゴに入れていく時の順序は、簡単そうで案外難しい。そして不可欠なのが笑顔です。内心は動揺しつつも、笑顔でとおさなければいけないのです。

 それだけではありません。サービスカウンターの担当にもなったので、呼び出しなどのアナウンス、発送業務、写真の現像、包装、商品券、返金の対応など、いろんなことをやることに。大丈夫かしら? ものすごく不安なんですけど。けれど、「できない」っていってしまったら、そこで終わりだしなぁ。

 さて、今回は口にまつわるお話から、いきなりですが「口さけ女」をご紹介しちゃいます。口さけ女といえば、都市伝説のひとつで1970年代後半に日本全国で流行しました。当時小学生だった私は、口さけ女が怖くて仕方がありませんでした。白いコートに白いマスクをつけた彼女は、なんと100メートルを6秒という早さで走り、手には武器ともいえるカマを持ち、人々に近づくと、マスクをハラリッと取り、耳までさけた口を見せていうのです。

  「私、きれい?」

  噂は噂を呼び、学校帰りに白いコートを着た口さけ女を見たという子供たちも続出。田舎育ちの私としては、人気のない道で万が一出会ってしまったらどうしようと、真剣に思い悩み、毎日速攻で走って帰りました。

 私をこれほどまで恐怖におとしいれた口さけ女にも唯一の弱点があって、ポマードが大嫌いなのだそうです。不幸にも口さけ女に出会ってしまったら、すかさず「ポマード! ポマード!!」と叫べば、一目散に逃げてしまうのだとか。ここまでくれば作り話だとわかりそうなものですが、逆に大人が面白がってしまい、テレビなどのメディアがとりあげるまでになっていたそうです。当然、商売に結びつける人も現れて、グッズまでつくられました。当時の人気ぶりをうかがわせる品物が私の手元にもあります。この口さけ女とは骨董市で出会いました。
 「懐かしい! なにこれ、見たことな〜い。こんなモノがあったんだぁ」
 思いがけない再会にうけてしまった私は、普段集めているモノたちと比べると、少々時代が新しいのですが、喜んでつれて帰ってしまいました。

 これは駄菓子屋さんで売られていたのでしょうね。今でもアイドルのブロマイドなどがありますが、中の見えない紙袋を引いて選ぶモノです。50円で20袋付きとのことですが、残っていたのは7袋。家に帰ると、どんな口さけ女がでてくるのかと、ドキドキしながら袋を開けました。
 ジャーン!
 でてきたのは口のさけ女のペーパークラフト(?)でした。全部で5種類ありましたが、どれも首や手がバラバラで、輪郭を切り抜いて、別に付ける首や手を動かすように組み立てるのでしょう。それにしてもすごい顔をした口さけ女ばかり。なにせ実在しない(たぶん)人物ですから、勝手にイメージして、つぎつぎと新しいバージョンの口さけ女が登場してしまったようです。

口のさけ女のペーパークラフト
口のさけ女のペーパークラフト
口のさけ女のペーパークラフト
口のさけ女のペーパークラフト

共通するのは手にマスクか刃物を持ち、返り血を浴びていることですが、そのわりには、おどろおどろしさはなく、どこかユーモラスな感じです。白いコートを着た地味な女のはずなのに、どれもが場末のホステスばりに派手な服装だからかも知れません。そして必ず口から血を流していますが、口さけ女が血を吸う話はなかったように思うし、この表現では歯槽膿漏にしか見えません。そのせいか、表紙の少年も心底怖がっているようには見えず、何か嫌なものを見てしまったというような風情です。今だからこんなふうに評論して面白がれますが、こんなモノを当時の私が買ったかどうかを考えると疑問です。また、暗い場所で見ると光るそうですが、さすがに年数が経っていますから、夜光塗料が劣化していて光りません。私の記憶には残っていませんが、口さけ女グッズは、このほかにもいろいろあったようです。

 さてさて、アルバイトをはじめて4日目。慣れるのにはもうしばらく時間がかかりそうですが、高校生から50代までと幅広い世代の人たちと知り合うことになり、観察しているとおもしろいです。お客さんにしても、いろんな人がいます。けれど、この辺りは人がおだやかなのか、私の大きな声に答えて挨拶を返してくれる方が多く、ちょっと嬉しい。

 笑顔? 私なりにやってます。松嶋菜々子さんや黒木瞳さんのようには、到底できませんが‥‥。


2002年12月16日更新
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