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さえきあすか

その16 熊手の熊太郎と国立貯金器の巻

ブリキ製の「国立貯金器」

 突然ですが、曽野綾子さんが書かれた『太郎物語』(新潮文庫)の主人公、太郎が好きです。中学生の頃から大ファンで、大人になった今でも、この気持ちは変わりません。私は太郎になりたかったのです(男になりたいというわけではない)。
『太郎物語』 太郎は「山本太郎」という平凡な名前が嫌いです。けれど、平凡が一番、平凡な中から学び得るものをひきだす癖をつけることを願うお父さんは、「太郎という名前は素晴らしい。どんな職業にも合うではないか!」といって譲りません。高校から大学へと少しずつ大人になっていく太郎は、陸上のこと、民俗学のこと、女性のこと、人間関係のことなど、いつもブツブツと考えながら過ごしています。そのブツブツさがとても好きなんです。
 気持ちが落ち込みそうになると走る。体を動かすことによって自分の中に違う風を吹き込む。自分の食べたい物は自分でつくる。そのために海に潜ってタコや小魚をとったり、渓流でクレッソンを摘んだり。何度かでてくる料理のシーンは、とてもおいしそうで、読んでいるとお腹がすきます。太郎は、世の中そんなに甘くはないし、無理かも知れないけど、趣味的な生き方をしたいと思っていて、私もその思いに共感していたのでした。
『太郎物語』 だからです。「太郎」という名前が好きなのは。わが家には「太郎」と名のつくモノがやたらと多いんです。その14でご紹介した狛犬の「コマ太郎」もそうでしょ。『ガラクタをちゃぶ台にのせて』(晶文社)の中でご紹介した消火器の「消太郎」もそう。
 
 さて、この原稿を書いているのは2002年11月も末日。11月といえば酉の市です。そんな季節がやってきました。といっても、これがUPされる頃には、新年を迎えていると思うのですが‥‥。
 「おとりさん」こと酉の市は、11月の酉の日に「オオトリ(大鳥、鷲)」と名のつく神社でおこなわれるお祭りのこと。最初の酉の日を一の酉祭、次を二の酉祭、三番目を三の酉祭といい、三の酉まである年は火事が多いといわれます。そもそもオオトリ神社は、武運を守る神様だそうですが、いつの頃からか「鳥」が「酉」になり、「取り」になって縁起を担ぐようになり、理屈ぬきで「福を集める」という商売繁盛に転化しました。そして熊手や福穂、色餅など縁起物を売る市が立ち、江戸時代から酉の市、熊手市、おかめ市などと呼んで、にぎわっていたそうです。
 「熊手が欲しい!」
 そういいつづけて何年になるかしら? 毎年屋台のおじさんの、パワーある口上に負けてしまって、あとお値段も不安で手がだせませんでしたが、今年は引っ越しもし、生活環境も変わったので、ぜひとも玄関を開けたら、狛犬と熊手がバーンと視界に入ってくる部屋にしたい! それに私の場合、熊手は毎年買い替えないつもりです。つまり今回買った熊手を、ずーっと飾っちゃおうって思っているのです。だから真剣に選びたい。
 ちなみに昨年はというと、きんのすけ(女)と池袋の酉の市にいったのですが、ちょっと淋しい市だったので、今年はにぎやかであろう新宿・花園神社に、またまたきんのすけと行ってきました。
 花園神社は想像していたとおり人であふれています。屋台もたくさんでていますし、酔っ払ったサラリーマンたちも楽しそう。やっぱりお祭りはこうでなくっちゃね。それにしても提灯はすごい! 境内が狭い分、空高くまで提灯が吊ってあるのですが、これがとってもきれいなのです。視界に入りきりません。寒い澄んだ空の下、赤い神殿に提灯と熊手のお店は、はっきりと美しく見え、ほうぼうで「パンパン」と威勢のよい手締めの音が響いています。

熊手

 熊手を売るお店は何件でていたでしょうか? 迷路のようになっていて、かなりの件数がでていました。もちろん値段も書いてないし、どんどん声をかけられるし、あまりにも種類が多くてわけがわからなくなるし、予算も決めていたから、たいへん! でも、きんのすけが若いお兄さんに交渉してくれて、値段のわりには大きくて、立派な熊手を購入できたのでした。メデタシ。メデタシ。
 その上、「さえきあすか」って書いてくださり、5人の方に「パンパン」と手締めをしてもらったのです。
 「さえきあすかさんにとって、来年が景気のいい1年であることを願って!」って。
熊手の「熊太郎」 なんか感激しちゃいました。こういうの弱いんです。売ってくれたお兄さんが優しい人でよかったです。両手で熊手を抱えてよく見ると、おかめを中心に、亀、鶴、松竹梅、恵比寿大黒、鯛、稲穂、打ち出の小槌、宝袋、米俵、大入袋、小判などなど、縁起物が大集合しています。色もとってもカラフルで、見ているだけで楽しい気分になります。大喜びで家に帰り、さっそく玄関を開けて正面に見える鴨居の上に吊ったのでした。
 翌日、きんのすけに報告です。
 「ねぇ、熊手に名前つけたのよ」
 「ふーん。なんて?」
 「熊手の「熊太郎」っていうの」
 「‥‥‥‥。そう。でも、あれは集合体では? 別にいいけどね。楽しければ‥‥」
 なんだか呆れられちゃったみたいですが、これだけでは済まされません。私は縁起物が大好きなので、もちろん古いモノだって飾っています。台所にはアンチモニーの恵比寿大黒、部屋にはセルロイドの恵比寿大黒、陶磁の招き猫各種、ブリキの達磨などなど。中でもお気に入りなのは、ブリキ製の「国立貯金器」という実用新案登録された貯金箱で、アンチの恵比寿大黒が金色の台の上に座っている、高さ10センチほどの小さなモノです。残念ながら鍵がなく、開けることができませんが、お金の入れ方が凝っていて、穴に落とし込むのではなく、真ん中の小さなひきだしを引いて入れるのです。戦前につくられた金属製貯金箱が特に好きな私にとって、この貯金箱との出会いは、とても嬉しかったです。ちなみに、埼玉県桶川市で毎月第2日曜日に開催される、「桶川市べに花ふるさと館蚤の市」にて出会いました。

ブリキ製の「国立貯金器」

 これらの縁起物たちにお願いします。どうか、2003年が楽しい年でありますように。


2003年2月25日更新
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その15 単衣名古屋帯の巻
その14 コマ太郎こと狛犬の香炉の巻
その13 口さけ女の巻
その12 趣味のマーク図案集の巻
その11 麦わらの鍋敷きの巻
その10 お相撲貯金箱の巻
その9 カール点滅器の巻
その8 ピンク色のお面の巻 後編
その7 ピンク色のお面の巻 前編
その6 ベティちゃんの巻
その5 うさぎの筆筒の巻
その4 衛生優美・リリスマスクの巻
その3 自転車の銘板「進出」の巻
その2 忠犬ハチ公クレヨンの巻
その1 野球蚊取線香の巻


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