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「蕩尽日録」タイトル


11月某日 神田錦町ノ
名出版社ヲ偲ビ、定食ヲ喰フ事
南陀楼綾繁


 今年の6月末、1997年からの8年間、ぼくが身を置いた編集室が、当初からの予定通りめでたく解散となった。で、2カ月ぐらいはぶらぶらしていたのだが、9月から、ある出版社に週3日通うコトになり、編集者とライターを兼業している。

 この会社は神田錦町にある。靖国通りの南側、神田警察署を中心とするエリアで、神保町には歩いて5分で着くし、最寄り駅も竹橋、神保町、小川町、神田と複数あって、とても便利な場所である。「本の街」であり、夜の早い神保町と比べると、中小の一般企業が多く、東京電機大のある錦町には、定食屋、立ち食いそば屋、飲み屋などが充実しているという気がする。あと、ナゼか裏通りに喫茶店がヤタラ多いのも特徴で、ぼくの会社から歩いて1分以内に、〈バロン〉〈プペ〉〈JIRO’S CAFE〉喫茶店が4、5軒ある。休み時間で、これらの店でコーヒーを飲みながら本を読むのが楽しい。

喫茶店

 そのひとつの喫茶店と同じビルに、ちょっと変わった店が入っている。科学模型やラジオキットを扱う「科学教材社」で、外から覗くと、リモコンロボットや鉄道模型、キャラクターグッズなどが置かれているのが判る。近くに子どもがいそうにない場所なのにナゼこんな店が? と思ったが、ホームページ(http://www.kagakukyozaisha.co.jp/)を見て、疑問が氷解した。ココは、神田錦町にあった大手出版社「誠文堂新光社」代理部として、同社発行の科学雑誌の記事中に出てくる科学用具や模型を販売する店だったのだ。

科学教材社

 誠文堂新光社は、1912年(明治45)に小川菊松がこの地に興した出版社だ。自伝『出版興亡五十年』(1953年)には、「神田錦町の、現在の社屋の後手の地に、玄関二畳、客間兼寝室六畳、台所兼茶の間三畳のシモタ屋を家賃十一円で借り、ここに初めて『誠文堂』の看板をあげて、書籍の取次仲買業、その頃の仲間用語の『セドリ屋』を開業した」とある。1935年(昭和10)には「誠文堂新光社」となり、『子供の科学』『初歩のラジオ』『無線と実験』『商店界』『アイデア』などの雑誌を発行した。

 1924年(大正13)、『子供の科学』創刊に際して、「雑誌と協力して、青少年の科学知識の普及をはかるとともに、趣味と実益、技術の向上を目的として」社内に代理部を設立。その後、店舗として開業した。さきほどの小川の自伝には、「昭和十七年、誠文堂新光社代理部から独立して、株式会社科学教材社と名称を変更したが、あくまで誠文堂新光社各雑誌の代理部として読者へのよりよきサービスに努力している。最近は『無線と実験』『初歩のラジオ』の関係もあって、ラジオの部分品、キット等が中心となりつつあるが、従前通り凡ゆる科学器械器具を販売している」とある。もっとも、商売人の小川らしく、やたらと「儲からない」を連発しているが。ホームページには、終戦直後の1946年(昭和21)に『少年工作』という科学・工作雑誌を発行していたという。これ、欲しいなァ。

 さて、その誠文堂新光社であるが、いまは神田錦町にない。10年ほど前はたしか、ココにあったハズだが、いつの間にか文京区本郷に移転していたのだ。また、社屋も2005年4月に取り壊されたようだ(「失われた近代建築 in Tokyo」http://yma2.hp.infoseek.co.jp/TokyoArch/ による)。ぼくがココに来る半年前のコトだった。科学教材社は、いわば神田錦町時代の誠文堂新光社の「名残り」のようなモノだったのだ。名残りといえば、この辺りには、おそらく昭和20年代に建てられた小ぢんまりとした古いビルがまだ多く残っている。しかし、それらが取り壊され、代わって新しく高いビルが建っていく様子にも日々出会う。

古いビル

 科学教材社を覗いたあと、すぐ近くの定食屋〈ふくよし〉でオムレツメンチ定食を食べる。その名のとおり、メンチカツの上にオムレツが乗っているもの。手頃な値段だが、けっこう食べでがある。ココの定食にはなぜか味噌汁が付いていないので、味噌汁(50円)を追加して食べる。通いだしてまだ2カ月ほどの神田錦町だが、ちょっとずつなじみ始めている。こうして、自分なりの地図ができていくのだろう。


2005年11月29日更新
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