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日曜研究家串間努

第13回 昭和 台湾レトロ 旅行 
第2回目(2010年1月分)

●台湾故事館

  今日は「台湾故事館」に行き、持病があるので漢方の診察を受けにいってみる。
  台北駅のそば新光三越の隣にあるKMALLというビルの地下が1920年代の台湾を再現したという台湾故事館である。近くに「地球村美日語」という看板を掲げたビルがあり、「NOVA」とも書いてあるのであの“駅前留学”のノバだろうか。
  台湾故事館は、日本の横浜にある昭和30年代を模した『ラーメン博物館』のような感じである。地価に降りる階段には映画ポスターが展示されている。ひと昔前のデザインにノスタルジーを感じるのは世界共通なのか。
  それともいわゆる経済の先進国が共通に抱く感傷なのか。スピードを出して置いてきてしまったものを振り返っている感じがする。昔の台湾の写真、例えば八百屋の店頭や子どもが自転車の行商おじさんから菓子を買っている模様なども展示されている。何に使ったものなのか、『ALWAYS 三丁目の夕日』のポスターも貼ってあったが、何故か「幸福の三丁目」と書いてある。「地獄の一丁目」という表現を思い出した。なぜなら150元以上のお土産を買う可能性もあるからだ。お土産売り場には台湾のレトロ本、レトロな絵葉書、台湾の懐かしい建築物を組み立てるペーパークラフト、駄菓子など、全部欲しいものばかりで、1500元も買ってしまう私は、この術中にはまったといえよう。

  日本にいるときにここの社長に取材を申し込んでいたが、取次のかたが日本語をよくわからないということで無理だった。その日はちょうどフー主任という日本語がわかる女性が休みだったのだ。
  ところが、この日、受付でチケットを販売していたのがフー主任だった。
  「フー主任いますか?」と尋ねると
  「え? 私です」
  というやりとりがあって、ぜひこの資料館を開館した社長に会いたいと申し出ると、あいにく台中に出張とのことで、取材用資料をくれた。なんだかサルの絵がついている。
  「このキャラクターには名前がついていますか?」
  「バナナちゃんです」
  料金は国際学生証の割引で150元(10元=約30〜40円)。しかもチケットには150元の割引券がついていて、館内でお土産を買ったり飲食をすると150元使える。つまり何かを消費する来場者にとっては、結局見学料金は無料になるという方式だ。これはうまいやり方だ。
  

  今回の特別展示は「童車展」という名前で、木馬や乳母車、三輪車の展示だった。一九六四年生まれの呉傳治氏のコレクションで、彼は二万点も所持しているそうだが、いったいどこに所蔵しているのだろうか。などと不思議に思っていたら、この呉傳治氏こそ、この故事館を開館した社長なのであった。

  故事館は、床屋や旅館、飲食店、薬局、写真館、交番などの店舗を再現し、かなり広い。歯医者さんなんて昔のホンモノの診療台まであるよ! ここには本当に食べられる小さなレストランもある。細かい展示物としては、ポスト、木製パチンコ台、ゴミ箱、行商リヤカー、張り紙や看板ものや実物商品がある。

  学校の教室を模したところには特に興味深い。床は木で、日本にもあった二つつながりの木製机である。教卓があるのは納得がいくが、黒板の右側に月日と天気を白墨で毎日書き換えることができる様に、あらかじめ白ペンキで月日と天気の文字が書いてあるのは日本と同じで、なるほどと感心した。

  教室内には「まぼろし小学校」的展示物がある。そこに色鉛筆があり、そのイラストが「バレエ星」「かあさん星」的だったのでちょっと驚いた。筆箱は「巨人の星」っぽかったりするし。

  また、児童雑誌も子どもの顔のアップが表紙だったり、タイトルが赤地に白抜きで黄色囲みの線だったりして雰囲気は昭和30年代の日本の少年雑誌と同じということにも驚いた。これは単純にコピー的商品だったということなのか。表紙にはウルトラセブンやちばてつやの漫画らしきものも見えるし。

  この辺り、研究したら(現在、日本のアニメが外国でも受け容れられていることのルーツともからめて)面白そうである。なお付録もついていたようで「東方少年」という雑誌の付録はバスケットボール盤である。

  駄菓子屋の店頭には女性の係員がいてちょっとしたパフォーマンスをしてくれる。また、千本引きのくじ(駄菓子のところで出てきた「虎口抜毛」の表示がここにあることから、千本引きのことを台湾ではこのようにいうのだろうか。それとも社長が駄菓子にあやかってつけたのだろうか)や箱破りくじ、竹でできた輪投げコーナーがあって賞品がもらえる。

【社員旅行4日目】

●遊園地と温泉を求めてレトロ烏來へ

  朝、ホテルで便。今日はそれぞれが別行動。私は遊園地と温泉があるウーライ(烏来)へバスで単身でかけることにした。青島西路のYWCAまでタクシーで出て、そこから新店客運バスの「ウーライ行き」に乗ることにする。ホテルから乗ったタクシーでは運転手から、「ドコいくの? 2000元でウーライ観光を請け負うよ」といわれるが、断る。
  自力で行きたい。そうしたら今度は名刺を渡してきて女性(風俗の)と凍頂烏龍茶を紹介するから、帰ったら夜に電話をくれと勧誘される。生活のため彼が必死なのはわかるが、日本人皆スケベではない。

  今日は雨が降りそうな雲行きで肌寒い。バス停にやっときたバスに乗り込む。乗るときに支払うタイプだったので70元を払い「烏来」と書いた切符をくれた。ガイドブックには朝はラッシュで都心の道路が込むとあったが、バス専用レーンがあり、結構すいすい進む。バスの車内では日本のように停留所の案内放送がないからどうやって降りるのかわからない。私は終点まで行くからいいのものの……。

  暇なので車窓から都市を眺めると、「牙醫」とかかれた歯医者や託児所が多いのが分かる。アドバルーンがひとつ、さびしく挙がっている。コンビニが日本並に多くて「OK便利店」「全家便利商店」(ファミリーマート)「福客多商店」(ニコマート)「統一商店」(セブンイレブン)が目に付く。歩道橋は青く、工事現場の「安全第一」の看板は日本と同じデザインである。

  雨が降ってきた。すると路上にはカッパや傘を売る露店がでてきた。だんだん都市から離れてくると、道路沿いにビンロウを売るお店も増えてくる。

  あるバス停から急に人が乗ってきたので人いきれで車内が暑くなってきた。都市部を離れそこからは山道になった。「永峰」というバス停などでどんどん人が降りていくが理由はわからん。ジンギスカン屋とか茶寮がロードサイドに点在してきた。みんなどこに行くのだろう。私はだんだん不安になってきた。登山歩道のバス停でも結構降りたので山登りか。トレッキングの山地でもあるようだ。

  雨がだんだんひどくなる。先が思いやられるが、河を渡ると奥多摩の日原のような風景になってきた。ビンロウの店もますます増える。床屋の看板は線ではなく水玉模様が回っているのが珍しい。大きな邸宅もでてきた。テントを張った露店でキャベツやバナナを売る風景は千葉の郊外と同じだ。

  道を歩いている人は全くいない。今度はだんだん山梨の名観光地・昇仙峡のような山道になってきて「烏来郷」にバスは入る。鳥屋さんが多い。警察官が立っていたが普通の民家だ。駐在所かな。徐々に川面に旅館街が面している鬼怒川温泉のような雰囲気になり、とうとう終点に着く。
  出発から一時間ばかりたったか。終点のバスターミナルではタクシーが客引きをしているがそれを尻目に右手に河原を見ながら進むと、成田山の門前町的な商店街に出る。屋台で売っているのは猪肉串(三つ10元)、温泉玉子(10元)、蜂蜜、米粉、野菜などだ。日本では玉子は物価の優等生といわれるくらい安いので、他の商品に比べて温泉玉子の高さが目立つ。

  ここでは日本っぽいものに結構出会う。
  例えば、なぜか日本の薬局の前にあったような『ムーバ』(10円玉を入れると動物やヒーローの格好をした固定乗り物が動くもの)がある。業者からの観光地向けレンタルかな。ちなみに料金は10元。そして綿菓子機。「棉花糖」という名前だった。

  商店街の終わりには橋があり、烏来風景特定区の入り口なのでチケットを買うようなのだが、チケット売り場は廃墟的になり閉まっている。橋を渡ると、今度はトロッコに乗るための木の階段が正面にある。原住民族をモチーフにしたヘンなオブジェを背にして昇り、日本では監督官庁から許可が下りるとは思えない、オモチャのような数両編成のチャチなトロッコ「烏来台車」になんと50元も支払って乗車しなくてならない。

  森林の中で材木を運ぶようなトロッコに50元とは高いとは思うが、心の中では「面白い、楽しいではないか」と感じている。なにしろドアはなく体の横に出せるのは硬質ビニールカーテンだけなのだ(たぶん雨用)。時刻表なんて気の利いたものはなく、お客さんが適当に駅に溜まると適当に発車になる。一両あたり4人乗れるが、雨なのですいていて貸切状態。

  だがスピードが意外に速くてコワイ。ガタガタ横に揺れるのでいまにも脱線しそうだ。最高速度は18キロらしいが、地面に近いところで乗車しているせいか、体感スピードは速いのだ。
  普通の道路や民家の横を走りながら(おまえは「花やしき」かと突っ込みたくなる)、終点近くではなんと真っ暗なトンネルへ突入! これは遊園地のスリルを味わうライドではなく、あくまでも交通手段なのにジェットコースターのように怖いのはヘンだぞ。参った。

  着いた駅の前にはウーライの滝が見える。泰雅山地文化村やお土産屋があるが私は遊園地に行かないといかんので無視。
  また階段を上って今度は台湾で唯一のロープウエイに乗って遊園地へ。ロープウエイ+入園料で220元。そして10元分のクーポン券がついているが、別につかわなくてもいい。ロープウエイ車内はカップルだらけで私のような男1人というのは皆無。マイクがあったから乗務員がなにか説明するかと思ったがそんなことは起きない。

  ロープウエイの駅から頂上まではとても近く、1分も乗ったかどうか。雲仙楽園に到着。歩いていると望遠鏡があった。有料の10元で金元光学という会社が設置。やはり日本と同じなのだと感激だ。『霊籤舎』という、10元を入れると巫女がおみくじを引いてくる自販機もあったのでこれも同じだと思い、当然やる。しかしおみくじの中身が理解できない。大吉が出たことにする。

  ものすごく坂を延々と上ると途中に池があり、そこの鯉に餌をあげるための自販機「魚餌販売機」(大仏実業が設置)がある。それは鯉が逆立ちしている形をしている。当然10元入れる。しかしブーンと大きな音がして10元が戻ってくるだけ……。
  品切れのようである。しかし日本人だから漢字を見て大体わかるが、英語やスペイン語圏の人々は訳がわからないだろうなあ。

  『親子中心』というゲームセンターに到着するともぐらたたきゲームがあった。しかし叩かれるのはモグラではなく犬バージョンであった。なぜ「ブルドッグ」を叩くのだろうか。モグラは台湾ではメジャーではないのだろうか。
  このあたりには何もないのでもっと遊園地らしきところへ進もうと、「20人しかわたれない」と書いてある恐ろしいつり橋を渡って「遊楽設園」へ。

●楽しい遊園地

  ようやく遊園地らしきところに出た。「人力手揺船」というのは小さなプラスチックのボートで、これに人を乗せて滑り台から池に向かって落とすものらしい。手動のウォーターシュートか? だが休みだった。

  「健身ブランコ」は電動ブランコであるが、自分で漕いだほうが早いと思う。その上にはプールと「原野楽園」という森林浴歩道がある。日本と同じように遊園地に遊戯場と運動場と休憩場とアトラクションが整っている模様だ。

  「射箭場」はアーチェリーのフィールドで。「漆弾射撃場」はライフルをやるところでありその近くにアレンジボールのルール的な「ハッピーボール」というスマートボール場がある。そしてなぜか有料の「按摩椅子」が業者によって置いてある。銭湯か。

  私が乗ってきたトロッコを記念して製作された、簡易の木製トロッコもあるがこれは推進装置がないので手動でお父さんが押すのだろうか。
  また、発泡スチロール製の玩具の鴨や城を釣る池があるが、そこに浮かべるボートは植木鉢と化しているので、このアトラクションは今はやっていないようだ。

  ビックリハウス風のお化け屋敷「魔幻の館」あり。少し進むが、壁に描いてある絵の意味がわからないし真っ暗だったので引き返す。

  便をしたいがトイレが汚いので潔癖症で使えず、山を降りていく。ホテルが途中にあったので、そこでトイレを借りようとしたが貸してくれない雰囲気。また、タイヤル族の博物館で借りようとしたが、入場にお金がかかるようで、トイレだけ貸してくれとの問答ができない。
  早く便がしたいので温泉場にいけばトイレがあると思って、我慢してロープウエイやトロッコを逆に下って温泉街までいくと、途中で屋台につかまる。

  元祖「小米(米+麻)(米+薯)」という粟の餅が串に刺して売っている。はちみつと胡麻をかけてもらう。30元もする。高い。昭和4年生まれのママさんが日本語を少し話すことができ「おかあさんいくつ。大切にしなよ」とねぎらわれる。パッケージにイラストがすごい汽水(ラムネ)あり。

  近くで「糖なんとか」という飴引きの実演販売があったが、親子と思える男性2人で飴を引いている。サンダルを履いたごま塩頭の父が雑巾で手を拭き、飴をハサミでチョン切り始めた。汚いと感じたのでそそくさと去る。

  飴引きのパフォーマンスの前では女性が一人さびしく「珠ねぎ」を3杷100元で座り込んで販売している。犬がたくさんいて黒い犬も野良犬でいる。「熱狗」と書いたホットドッグの屋台の周りにもいるが、お前ら共食いだ。

●自分でスイッチを入れる温泉?

  屋台のおばさんから解放された、体まるごと便意の固まりの私は、わが肛門括約筋の大活躍を期待しながら商店街をウロウロ。いくらか逡巡しながらも温泉場「小川源」に入る。実はウライというのは先住民のタイヤル族の言葉で「温泉」という意味なのだ。この辺りの温泉場のネーミングはみな日本の名称っぽい。伊豆温泉だとか、花月温泉だとか。

  いつもなら、どこでも温泉・銭湯に入れるよう、タオルを持ち歩いているが、今日に限って持っていない。番台の兄ちゃんに筆談で「手拭有?」「手巾有?」とメモ帳に書いて差し出すとうなづく。250元支払い、階段を下って「大衆池」に向かう。
  「大衆」ということで他人と一緒に入る銭湯的な意味を表すようだ。靴は下駄箱に入れる。青い脱衣カゴに黄色いフェイスタオルとバスタオルが入ったものを渡される。それを南京錠が付いたロッカーに入れると荷物や着ていたものがあまり入らないゾ。

  風呂場のドアをチョイと開けると右側に青いカゴをいれる棚がある。なるほどあっちにこのカゴを置くのね。そこは乾燥エリアで、オジサンたちが風呂上りに新聞を読んだり整髪したり休憩しているスペースだ。新聞が湿気ませんか?
  それより便所はどこだ? フロントに戻りそう聞くと、係員は風呂場の中だと指をさす。確かに和式トイレがある。確かにあったよ。しかしそれは、風呂場の一角なのだが……。床がびしょびしょに濡れている。たぶん温泉の湯が流れてきているのだろうが、イメージとしては気持ちが悪い。真っ裸で用便するのは赤ん坊のとき以来だ(もちろんその記憶はない)。
  仕方なく裸で用を足すが気持ちが落ち着かない。目の前には「用便のあとには体をよく洗ってから浴槽に入れ」という意味の漢字が書いてあった。当たり前だろ、用便しなくても「洗体」してから浸かるのがマナーじゃないの? カンベンしてよ〜。しかし、ここは台湾、細かいことに気をとられていては生きていけない。
  しかし、1999年の台湾月報という新聞には「7割の台北市小中学生が「うつ病」。」という記事があるようなので、みんながみんな、適当に生きているのではなく、日本の神経質な青年から見ると緩い感じがするだけなのかも。

  浴槽は全部で4つ。滝に打たれる風呂、横から気泡が出る風呂、下から泡が出る風呂、熱い普通の風呂がある。それぞれ、「沖激」「按摩」「気気」という字が書いてある木製のボタン(センサー)に触れないと機能が作動しないし、時間が経つと自動的に止まる。日本のように無人でもバイブラやジャグジーに泡が出続けるわけではないという合理的精神だ。
  ボタンの近くで温まっていたら、こちらをチラチラ見る男がいた。なんだなんだ、どうも気味がわるいなと思ったら「スイッチ押してくれないの」というアイキャッチだったようだ。湯の質は温泉のようには感じられなかったが、ホームページを見ると源泉掛け流しとのこと。

  おっとビックリ。髪を洗うため椅子を前にずらそうとしたら動かない。大理石の椅子は床に固定されているのだ。ギャグ漫画のようで恥ずかしい。アメニティはボトルタイプのシャンプーと石鹸だけ。桶はどこだ?  桶は。
  シャワーでなんとかするが顔はどうやって洗う? タオルはどうやって濯ぐのだ。だが、台湾なので桶がなくてもOK、OKなのか。日本の習慣からは慣れないことばかりであったが、それも楽しい。
  風呂から上がっても独りなのですることもない。煙草も吸わないし。だからパウダールームのようなところにいてもしょうがない。しかし、韓国の銭湯もすごかったが台湾もすごいなー。名残おしいが帰ることにして、外で従業員と記念撮影する。

  帰りの停留所がわからないが、屋根があり人がいるところがあったので、そこに適当に並び、適当に順番を抜かしたら台北行きのバスに座れた。もはや私も『台湾ゆるやか精神』をマスターしたといえよう。

●何も考えず、龍山寺に向かう

  猛スピードでウライを観光したので、まだまだ半日程度残っている。貧乏性なので、もっともっと観光しなくては考えが浮かんでしまったのだ。『台湾ゆるやか精神』なら、もうホテルに帰ってもいいのだが、日本には「行きがけの駄賃」という言葉もある。
  よーし、もう一箇所くらい行けるだろう。ガイドマップを見たら台湾最古のお寺「龍山寺」に寄れる。日本の浅草のようなところか。それなら「新店」というバス停で降りて新店駅からMRTという鉄道で行ったほうがいい。しかし、このバスの終点ではないから、途中の新店バス停でどうやって降りればいいのか……。
  バスはどんどん乗りこむ乗客で大混雑だが「次はどこどこ」の車内放送は全くない。やっと都市部に入ると急に乗客がどっと降りた。野生のカンが「ここが新店だ!」と思った。運転手に「シンテ〜ン?」と語尾アガリの疑問形で訊ね、40元の紙幣を見せて払って降りようとしたら、一番前に座っていた女性が「ネクスト!」といって腕を引いて止める。その人も新店で降りるらしい。
  こっちも必死だから「アイ・アム・シンテン」と無茶苦茶な英語で話しかけると女性もうなづくというスゴイ会話。降りたらこっちですヨ〜という感じで腕をつかんで親切に駅までエスコートしてくれたが、駅でお辞儀をしてバイバイ。だが特にこの女性とは何もシンテンはなかった。

  新店駅で1000元を両替し、35元の乗車票を買い、淡水行きに乗り、龍山寺へ。MRTの中で、「博愛座」という日本でいう優先席があり、そこに座っていると叱られるという話であったが、実際は健康な人も博愛座に座っている。こういうのは日本と同じ光景であった。
  ただし飲食は罰金なので、ガムを噛んでいる人さえいない。日常生活の些細なことには緩やかに対応、そして法律化されていることは厳守する。緩急自在の国民性が私は大好きです。

●わけがわからないのが面白い

  駅を出ると駅前広場があり、そこでは老人中心に憩いの広場となっている。外なのに将棋を打っている人もいる。しかも将棋板がテーブルに直接描いてあるよ、なんだこれ。
  龍山寺はすごい。堂々と門前に物売りがいる。僧侶も立っているのだが、このひと欧米の白人だよ? それなのにみな何元か恵んでいる。いいのか。
  さて、予備知識がないのでお参り方法がわからない。道教や民間信仰の偶像も祀られているが一堂に神仏がたくさん集まり過ぎでは。あとでわかったがご本尊は観世音菩薩で、学問の神様や、縁結びの「月下老人」という神様もお祀りされているそうだ。

  ここでは全部の神仏にお参りしなければならず、参拝順も決まっているという。台湾は大らかさが良いと思ったのに、「境内に必ず『左足』から入る。門の敷居を踏まない」など、参拝に関しては厳格(ただし縁結びの月下老人だけは、忙しいときには適当な縁組をしてしまうという。やはり面白いぞ台湾)。
  とりあえずスーベニアショップでお守りを買う。欲しい番号をメモ帳に書いて渡す。ひとつ30元とは安い。日本だったら100元はしそうだ。
  おみくじやカードが置いてあるのだが、これが有料なのか無料なのかわからん。しかもおみくじは、高さ一メーターほどの大きな棒を引くのだ。ありえない。七五番が出た。大きな引き出しから一枚もらう。「吉凶」は書いていない(調べたら、處籤解という、おみくじ解読所があって、そこで日本語がわかるスタッフに教示してもらえたそうだが、もう後の祭り。そもそも、おみくじを引いていいかどうかの儀式も必要だった)。

  皆、棚の上に盆栽や花、果物、菓子を載せ、祈りをささげる。木で出来たミカンの房のよう木片2個を地面に放り投げる人もいる。線香は長さ50センチくらいなので、ウロチョロしている人から鼻先に火を点けられそうで危険がアブねえ。ローソクも長いので、持っている人にでくわすとアチチのチ。
  鐘がチンチンと鳴り、女性のハーモニーで般若心経のようなものが聞こえてくる。天井もギンギラギン。さりげないところはまったくない。旅に来たのに別の意味のトリップをしそうだ。
  とにかく訳がわからないのでなんとかしたい。
ガイドが同行するツアーで来れば、ただ説明を聞けばよいので人まかせの物見遊山になりがちだが、独りぼっちのときは理解するために一生懸命努力する。そして帰国後に調べて意味がわかり、その知識と体験が血肉になる感じがする。……と負け惜しみをいってみたりして。

  近くの商店街へ。倉庫内で競りをやっていたり、情報を売っている人を取り囲んでいたり。歩道の上ではサイコロ賭博をしている。そこにバイクが来たのに別にお互いに怒らない。賭博者はとりあえず一度どいてバイクを通し、その後に再開。路上物売りなどもあり、ここは危険なエリアだろう。

  しばらく歩いているとガスが出るようになった。
1:音が出るすばらしい力強いおなら
2:音が出ない匂いの強い危ないおなら
3:放出しようとすると空気だけでなく水分を肛門で感知してしまいそうなレッドゾーンのおなら
  の3段階のうち、1になった。漢方薬のせいかもしれない。

●さあ、帰国へ

  最後の日は午前中にタクシーで竹里館へ。台湾の高級カフェだ。私はキンセン茶を頼む。うすいうすい。3杯までお湯を取り替えることができ、お湯は適宜ウエイトレスが持ってくる。ウエイトレスはものすごく鼻を近づける。br />  そんなに近づけないと匂いがわからないほど鼻が悪いのか。それとも匂いが薄いのか。烏龍茶の茶道のようなものなのか。とにかく高いだけあってお茶をガブガブ飲む感じではない。おしとやかに。喉が渇いている、時間と懐にユトリがない人には向かない店。

  この店では濡れているおしぼりが出た(他の食事処は乾いている。あと、台湾はシュガー袋の1回分が日本より多い。さすが砂糖栽培の国)デザートはピーナツの粉がついている宮廷菓子を2種類食べる。もち米を蒸したものでうまいといえばうまいが、私は青柳ういろうやくず餅のほうが好きだ。

  ホテルに戻るタクシーは台湾最高のタクシー。ナビがついていて、玉のれんとしか思えない座席カバーまである。しかも芳香剤の代わりに生レモンを室内で絞る。いきなり「プシュ」と車内でやったものだから皆驚くことこの上もなし。
  助手席に座っていた社員は大コーフンして「何何何それ、レモン? 何?」と聞いていた。日本語なので運転手には通じていない。だが彼は心の中で「これやる日本人驚くんだよなー。してやったり」とガッツポーズをとったことだろう。
  今回は社員旅行として来たので行き先に制限はあったが十分楽しかった。この国にいると、心が大らかになれるし、おならも力強く出るので、また来たいと思う。(終わり)


2010年3月24日更新


第12回 「超大作! 昭和"台湾レトロ"旅行」
第11回 「超大作! 吉見百穴と小江戸・川越の旅」
第10回 「大増鍾乳洞と国際マス釣り場」
第9回 「青梅探石行と日原鍾乳洞」
第8回 「会津若松・野口英世青春通り」の巻 後編
第7回 「会津若松・野口英世青春通り」の巻 前編
第6回 修善寺の昭和レトロな温泉宿の巻
第5回 青梅商店街<その2>の巻
第4回 青梅商店街の巻
第3回 スカラ座閉店愛惜記念「名曲喫茶」の巻
第2回 水戸の駅前商店街漫歩
第1回「牛にひかれて善光寺参り」の巻


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