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第22回「バスクリンは
漢方薬のリサイクル」の巻

「バスクリン」

日曜研究家串間努



 子どものころ、冬場はお風呂に入るたびにバスクリンを入れるのが愉しみであった。当時は毎日ではなく三日に一度くらいしか風呂を立てなかったので、なおさらだ。入る順番は父からと決まっていた。父は「さら湯がいい」といって、沸きたてのお湯に入っていた。私はそれをいいことに、バスクリンの計量&投入係をやらせてもらった。貧乏なウチでは貴重品であったから少しでも多く入れると怒られた。オレンジ色の粒が、透明なお湯に瞬く間に溶けて行き緑色に変わるのが嬉しい。ジャスミンの花はみたことがなかったけれど、このような美しい匂いがする花かと思った。将来はバスクリンを節約せずふんだんに使えるようになりたかった。

 バスクリンといえば次のような疑問がある。
 内風呂がないころ、銭湯に通っていたが母につれられていくときは、母の実家近くの銭湯まで乗合バスで通っていた。そこのお湯は父と行く銭湯と明らかに違っていた。お湯が緑色なのだ。粉末ジュースが全盛のころで、バカな私はジュースの風呂だと思い、口に含んでみた。すぐに叱責され、何度もうがいをさせられた。母はこれはバスクリンが入っているのだという。確かに冬の寒空の中、一五分かけてバスで帰っても湯冷めしなかったから、入っていたのかもしれない。だが実際、銭湯がバスクリンを入れるのか疑問が残る。

 「もともと銭湯向けだったのですよ。当時は内風呂がある家庭は少ないですからね」(株式会社ツムラ広報部)
 なんと現在も銭湯用の一〇キロ入り業務パックがあるというから、バスクリンを入れている銭湯は実在するのだ。

 ツムラの創業者は明治二六年に日本橋に津村順天堂を開店、婦人薬「中将湯」を製造販売した。一六種類の生薬をティーバックのようなものに詰めたもので、それを煎じ薬として使い冷え症などに効果がある。この製剤途中で生薬の残りかすが発生する。ある社員が「飲んで温まるなら、風呂にいれたらどうだろう」と着目し、持ち帰って風呂に投入してみたところ、あせもが改善されるなどの効果をみた。近所で評判が高まるにつれ、「うちにもわけてくれ」と銭湯から言われるようになり明治三〇年に「浴剤中将湯」が誕生する。
 これがバスクリンの前身である。

婦人薬「中将湯」
「浴剤中将湯」

「芳香浴剤バスクリン」 冷えに効く「中将湯」だが、「夏場は温まりすぎて熱いよ」という声が出、温泉の成分を参考にした「芳香浴剤バスクリン」が昭和五年に発売された。ブリキ缶入り一五〇グラムで五〇銭。有効成分が清浄効果や保温作用を果たす。当時の人気画家高畠華宵がラベルを描いたが、入浴シーンの美人画というセンセーショナルなものだった。発売当時から緑色でジャスミンの匂いがした。香りが高級感をかもし出し、落ち着きのある色がリラックス効果を生んだ。

「ブーケ」 内風呂がない時代は銭湯での需要だったが、昭和三〇年代後半から内風呂化が進んでくると、一気に家庭用ニーズが高まった。大量生産に備え自社工場を整備し、昭和四三年には、長年親しまれてきた紙製の丸缶となる。香りの面でも昭和三五年に「ブーケ」を発売したのを皮切りにローズ、レモン、木の香などとバリエーションが広がり選択する楽しみが増えた。現在は森の香りが第一位に支持され、紫のお湯になるラベンダーが受けはじめているそうだ。これはアロマテラピーなどが普及してきた五年くらい前から、精神のリフレッシュ、癒しが求められる時代になってきたことと無縁ではあるまい。「バスクリンはいつの時代でも入浴効果と香りや色を楽しめるスタンダード品でありたいのです」と同社バスクリン担当者は言う。その上で、香りをマイルドで持続性あるものに変えるなど時代に合わせた改良を行っている。
 入浴時にプラス・ワンの楽しみを与えてくれるバスクリンは、入浴剤の代名詞。日々、疲れた私たちの心と体を温めてくれる存在だ。

毎日新聞を改稿


2005年7月7日更新
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