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第1回「コンプレックス類 身長科」の巻


新聞広告 太るクスリ、小心恐怖に催眠術、野球バックルに七徳ナイフ……。
 昔の少年少女雑誌に掲載されていた通販の広告ってなんかアヤシかったよね。そんな声に応えてはじまったのがこの企画です。
 もちろん役立つグッズや通信講義などもありましたが、チャチなものや、効果が果たしてあるのかギモンなもののほうが多かった気がします。実は私はそんな通販のいかがわしさが嫌いではありません。見世物小屋の看板におどろしく「大イタチ」と書いてあり、期待して入場したら大きな板に血液が塗ってあるだけ。これに怒る人がいるでしょうか。納得してお金を出し、軽い騙しを楽しむというイキな心はステキです。自分の分をわきまえながら、洒落がわかるという余裕をかましたいものですね。
 しかし、頭がよくなるとか、背が伸びるとか、法規制でいまではなくなってしまった広告コピーもありますが、果たしてそれでいいのでしょうか。
 確実な商品を堅実なコピーで消費者にお届けする。そういう姿がいちばん望ましいということはわかっていますが、まっとうな商材ばかり残ってしまい、「スカートの中を透視できる眼鏡」みたいなものが排除されるのは残念です。
 それはまるで、公営ギャンブル場にある立ち食いの売店が改装されて、こぎれいなファーストフードに変わってしまったような寂しさです。暗くて汚い闇の中も大好きな私には、無菌状態の明るい場所は苦手です。居心地が悪いのです。

 しばらくは、ミナト式(点鼻薬)、伸長器、小心恐怖、など子どもたちの劣等感をついた商売をとりあげます。
 肉体を強化したり、病気を克服することで劣等感を払拭して、本来自分があるべき姿に奮闘努力する少年たち。彼らにとって、通販広告は大変ありがたい情報源でした。子どもにとっては、どうやったら背が伸びるのか、筋肉をつけるにはどうしたらよいかということはわかりません。しかし通販広告は「これを買えば△△になれる」と、声高にアピールしているのです。
 なかでも背が低いことの悩みは深刻でした。なにかにつけて小さいことより大きいことが良いことだとされている価値観の社会にあっては、友達にからかわれないため、異性にモテたいために背を伸ばしたいという需要は相当ありました。
子どもの世界での喧嘩や集団内部の序列決めで、体格的要素が左右することがあります。体が小さいということは、ハンディを背負うことになりますから、男の子としては、背を高くすることは本能的な願いです。また。背が低いということの根底には「栄養が足りない」からではないか、という不安がつきまとい、それは「もっと栄養価のあるものを食べたい」という気持ち、つまり、背が足りないのは家計が貧しいからで、この貧乏から脱出したいという無意識の不全感が隠れていたのではないでしょうか。
 バランスのとれた食生活を目指すこんにちと違い、まず、たくさんのカロリー摂取を目的としていた時代の栄養観から、そのような考えが生まれてくるのではと思います。

新聞広告 今回、図版でご紹介した「身長機」(伸長器ともいう)は、現在する広告で一番ふるいものは昭和31年です。いまでも、「ハイグローマシン」という名前で現存するようですが、「身長が伸びる」というトークはしておりません。
 身長機には牽引マシーンや、電気の力を利用するものなどがありましたが、腰と足を牽引して足を長くする方法は、関節に炎症を起こすということで、発売が禁止されました。
角川書店の雑誌広告掲載基準(http://www.kadokawa.co.jp/ad/keisai_kijyun/05.html)では、医療用具類似品の広告について、次のような自主規制をしています。

「伸長器、隆鼻器、視力回復器、針式脱毛器、豊乳器、頭のよくなる機器、記憶力を増大させる機器等、学問的、医学的根拠のないものは掲載できない」

 通販広告なんでもアリであった時代に、様々なトラブルを経験してきた出版業界は、現在、一定の基準のもとでフィルターをかけるようになったのです。時代とともに社会は良識・常識の基準が変ります。金属も紙も無分別であったゴミ捨てが、きっちりとした分別を要求されることに変わったようなものです。
 また、「身長機」の広告は、昭和37年に規定された『不当景品類及び不当表示防止法』という法律によって、「不当表示」であると判断されたことがあります。
「医学的にみて身長を伸ばす効果をまったく有していない器具に、『身長機』の名称を付し、これを使用すれば容易に身長を伸ばすことができる旨の広告をしていたことが不当表示とされた」(吉田文剛編「景品表示法の実務」p22)
 身長機の広告が少年雑誌に掲載されているということは、自分以外にも身長が低いことを悩みひとがいるんだという連帯感をもたらしたと思います。また、自分の悩みを解決しようとしてくれる企業の存在を知ることで、世の中が自分を見捨てていないんだという確認を得ることができたと思います。
 医学的効果はなかったとしても、「不当表示」にあたるコピーが少年の魂を救っていた側面はなかったのでしょうか。不当表示の功、罪はどちらが重かったのでしょう……。


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