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アカデミア青木

第9回 「肥満児」登場


 戦後の児童の体型をめぐる問題として、第2回の番組で「もやしっ子」を扱ったが、今回は「肥満児」を取り上げる。そもそも、「肥満児」という言葉が新聞に出てくるようになったのはいつか?肥満児関連の記事を捜すため『朝日新聞』の「戦後見出しデータベース」を検索したところ、昭和40年5月12日付夕刊に「肥満児解消めざして 館山市北条小学校の新しい試み」という記事があった。これによると、現地では昭和36年頃から肥満児の増加が目立ってきたという。千葉県館山市は房総半島の南端で温暖な気候で知られているが、北条小(全校生徒約1500人)の児童の家庭は、5分の1が農家で残りは商店やサラリーマンという都会的な構成をしている。下級生には「テレビっ子」が多く、上級生になると塾通いをする子供が出るなど、運動不足になりやすい環境にあった。同小では、体操の時間に皆と同じ運動ができない程太った子供が、21人(うち男子9人)いた。学年別では3年以下が3人で、4年生から急に太り出すという。

 肥満児であるか否かを決定する目安として、「ローレル指数」というものがある。

 ローレル指数=体重(kg)÷(身長(cm)の3乗)×(10の7乗)
この値が160以上になると「肥満児」とされるが、「もやしっ子」の際に見られた全国的なデータの変化は肥満児にも見られるのだろうか。この指数を用いて昭和30年以降の肥満児の傾向を分析してみよう。


 まず1位のローレル指数の増減を見ると、昭和30年以降低下していった値が、40年を底に増加に転じている。即ち「全国的に見ると、児童の体型に肥満傾向が出始めるようになったのは昭和40年代に入ってから」といえそうである。また、ベストテンに入っている都道府県の移り変わりを見ると、昭和30年、35年に農業県が並んでいたが、40年に入ると愛知、東京、大阪といった3大都市圏の都府県が上位をうかがうようになり、平成6、12年には再び農業県が上位になるなど、半世紀の間に激しい浮き沈みがあったことがわかる。この間の東京の値をまとめたのが、表1−2である。これを見ると、東京のローレル指数は昭和35年の120.0が最低で、それ以降増え続けていることがわかる。つまり、「東京都の児童の体型に肥満傾向が見え始めたのは、昭和30年代後半」で、これは東京に隣接する千葉県の館山市北条小で肥満児の増加が目立ち始めた時期とも一致している。

 「肥満は、摂取カロリーが消費カロリーを上回るために起こる」といわれているが、児童の肥満はなぜ起こるのだろうか?小生が小学生だった昭和40年代後半は、「おやつの食べ過ぎ」が肥満の元凶とされた。この説を検証するため、昭和44年の各都道府県庁所在地の1世帯当たりの年間菓子購入額を調べてみた。

表2と表1の重複を調べてみると、「総合計」での重複は「東京」、「埼玉」、「神奈川」の3都県に過ぎず、肥満とおやつとの間に明確な因果関係は見られなかった。参考までに主要品目での上位10位も調べてみたところ、表1との重複が最も多かった菓子は「あめ」で5つの道県がベストテンに入った。ただ、あめの購入金額は菓子総合計の4.5%しかないので、犯人とするには難がある。

小学1年生の頃
小学4年生の頃

写真1 小学1年生の頃

写真2 小学4年生の頃

 カロリーの摂取側に問題がないとすると、消費側に問題があるのだろうか?上掲の記事では、「テレビっ子」や「塾通い」に起因する運動不足が肥満の元と指摘している。小生の当時の写真を見直してみると、確かに家の周りで走り回っていた小学1年生時(写真1)より、読書やテレビに耽り塾通いをしていた小学4年生時(写真2)の方が明らかに太っていた。都市部で学習塾が盛んになるのは昭和30年代末のことなので、「塾通いによる運動不足が肥満の一因」という説はあながち的外れではないのかもしれない。当時「肥満児教室」と銘打って肥満児を集めてスポーツをさせたのも、運動不足解消のための一手段だったのだろう。ちなみに写真2は、小生が放り込まれた「スポーツ少年団」の合宿の1シーンである。

 肥満児の記事は昭和40年代を中心に新聞を賑わわせたが、今日めったにお目にかからない。しかし、表1にあるように児童の肥満化の傾向は今日も続いている。「ハイティーンになって過激なダイエットに励むより、幼少の頃から肥満に注意していれば良いのに」と思うが、そういうと「肥満中年が言うんじゃ、説得力ねーよ」と反論されそうなので黙っておくことにしよう。

[参考文献

文部科学省『学校保健統計調査報告書』

総理府統計局『家計調査年報』(昭和44年)]



2003年3月19日更新


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